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◆バレンタイン2008

1.花を与えよ…ラダカノ←サガ
2.優先してね…ロスサガ
3.お揃い…サガ&星矢
4.自分へのご褒美…黒と白
4.スノードロップ…シュラ黒


◆花を与えよ…(ラダカノ←サガ)

「どこへ出かけるのだ?」
 外出の支度をしている弟へ何気なく尋ねたサガは、言ってしまってから今日がバレンタインであることを思い出し、無粋であったかと内心でまごついた。
 兄の動揺をよそに、カノンはといえば気にする様子もなく、いつもどおりの返事をする。
「ちょっと冥界へ出かけてくる。帰りは遅いかもしれん」
 行き先はサガの予想どおりだ。
 こう堂々と返されると、それはそれで複雑なサガである。
 弟が冥界へ行くという事は、つまりラダマンティスへ会いに行くという事だろう。
「土産も持たず、手ぶらで行くのか」
 鈍感ゆえに妬心を浮かばせることの出来ないサガは、関心を気遣いという形に変えて尋ねた。
「いや、適当にその辺で花でも買っていこうかと思っているが」
 ギリシアでは、聖バレンタインが花の世話を好んだ史実に由来して、花を渡すのが主流だ。
 ラダマンティスの出身地であるイギリスでも似たようなものなので、そこは問題ないのだが、サガはふと首を捻る。
「冥界に花は持ち込めるのだろうか。入った途端に萎れて散ってしまうのではなかろうか」
 命あるものは阿頼耶識に目覚めでもしないかぎり、冥界へ足を踏み入れると同時に死ぬ。
 生花もそうなのではないか。
 それを聞いてカノンも首をかしげた。
「切り花は生きているのか?切った時点で死んでいるのではないか?」
「さあ…そう言われてみるとそのような気もするが、どうなのだろう…」
 花には疎い二人だった。
「サガよ、花については平気かもしれんぞ?冥界で琴座のオルフェが恋人と暮らしていた場所には花が咲いていたらしい。青銅の小僧っ子たちは、その花に隠れてハーデスのもとへ侵入しようとしたと言っていた」
「うむ…それは聞いている。しかし前聖戦の資料によると、冥界で唯一生きながら存在するのは、血の大瀑布を水代わりに吸って育った木欒子のみという。その実をもとにシャカの封魂の数珠が作られたのは知っていよう」
「じゃあ冥界に咲いているのは何だ」
「命の無い形のみの花…ではなかろうか。散る事もなく、実も結ばぬような」

 答えは出なかったものの、折角地上で購入した花が渡す前に枯れるようでは金の無駄遣いだ。
「ああもう面倒くさい。花を持ち込むのが難しいなら、現地調達でもするさ」
 地上の花が無理なら、冥界の花を持っていけばいい。それほどイベントに拘りも無いカノンは、適当にすませるつもりで軽く答えたのだが、そう言うとサガは驚いたように弟を見た。そのままじーっと何か言いたげに見つめている。
「な、なんだよサガ」
「お前が、彼の為に自分で花を摘むのか」
「うっ…し、仕方ないだろう。どうせ奴も花束のセンスなどありはしない。どの世界の花かなどと判らんだろうし、金をかけてないことなんざ気づかねえよ」
 似合わぬことをするのは判っているさと、むくれているカノンへ、サガは小さく微笑んだ。
 それでもカノンは花を渡すつもりなのだ。
「ラダマンティスは、いいな」
「は?」
「私も花が欲しい」
「買ってくればいいだろう。大体今日は他の連中が山ほどサガ宛に持ってくるんじゃないか?」
「お前の摘んだ花が欲しいのだ」
 珍しく強く言い募るサガへ、カノンが呆れたように肩を竦める。
「わかったよ。帰りにその辺で摘んでくれば良いのだな。何でもいいな?」
「ああ」
「その代わり、ラダには持ってくのが雑草だってのバラすなよ」
 カノンにとっては、金をかけてない花は雑草という認識だ。

 ラダマンティスの為にカノン自ら作成した花束と知れば、彼も一層喜ぶだろうにと思いつつ、サガは黙って頷いた。

2008/2/18


◆優先してね…(ロスサガ)

 アイオロスがシェスタの時間を利用して双児宮を訪れると、外観上は変わりないものの、居住部分には既に花と菓子が山のように積まれていた。

「あーあ、またモテちゃって…」

 そういうアイオロスこそ、復活した英雄として老若男女問わずから山のような届け物を受けているのだが、それはそれ、これはこれという事らしい。
 もともと娯楽の少ない聖域だ。女神が帰還して、ひとときの平和を享受している聖闘士たちが多少浮かれている上に、日本育ちの女神が他教のイベントに寛容だったこともあり、雑兵や下働きの住人たちが高嶺の花である聖闘士へ、競ってバレンタインの贈り物を届けるようになったのだった。

 建前上、聖闘士に女性はいない。
 仮面をつけて女を捨てた少女聖闘士と、少年聖闘士たちは同じ女神の僕としてくくられる。
『それなら男女関係無くプレゼント贈っても良いよね、元々プラトニック発祥の地だしね』
 そんな理屈により、送り先の性別には誰も拘らない。寛容な大らかさがギリシア気質の良いところだ。

 双児宮には二人分のプレゼントが寄せられるため、他宮より品物が多いのは当然だった。
 アイオロスは腕を組んでやれやれといった風に溜息を零し、贈り物を踏まぬよう避けながら奥へと進んだ。

「サガ、いる?」

 個室となっている部屋を覗き込むと、訪問用の法衣を着たサガがいた。
 アイオロスの呼びかけにニコリと笑って立ち上がり、友を出迎える。

「こんにちは、アイオロス」
「出かけるところだったか」
「ああ、ロドリオ村に用があって…ついでに買物でもしてこようかと思っているのだ」
 おっとりとサガが微笑む。その微笑に何人が熱狂することか。
「バレンタインだから?」
 そうだと答えるサガへ、アイオロスの独占欲がむくむく湧き上がった。
「サガもバレンタインに乗るクチか。意外だよ」
 わざと責めるようなニュアンスを込め、軽く小突く。するとサガは慌てて言い訳をした。
「す、すまん。次期教皇の前で、浮かれて異教の祭りを楽しむ話など…その…世話になった者たちに礼をする機会が嬉しくてな…」
(へえ、浮かれてるんだ)
 しどろもどろなサガの前で、アイオロスの笑顔はその内心に反比例してますます爽やかだ。その気になって内面を隠すときの仮面の完璧さにかけては、アイオロスもサガに負けてはいない。

「構わないけど、誰にあげるつもりなんだ?」
「誰って…皆に」
 皆というからには世話になった(とサガが思っている)相手へ、平等に配るつもりなのだろう。
 博愛なサガの性格を考えれば、そこまでは予想通りだ。

「女神と星矢たち青銅聖闘士とアイオリア…そしてシュラやデスやアフロディーテにはきちんとした物を贈るつもりだ。シオン様やカミュにも渡すべきだろうな。品物などで済むとは思っておらぬが」
「凄い散財しそうだけど」
「このくらい何でもない」
 さらりとサガは言っているが、何でもないわけがないことを、アイオロスは知っていた。
 サガの生活はとても質素だ。生活必需品以外の物を買う事が殆どなく、聖域から渡されるお金も近隣の村へ寄付してしまうか、聖域の施設用に回してしまう。
 それでも何かあった時のためにと蓄えてあるお金を、サガは使うつもりでいるのだ。

「カノンにも買って来ようかな…同居でいろいろ迷惑をかけているし」
「ふうん」
「冥界で世話になったタナトスにも用意したほうがいいだろうか」
「それはあげなくて良いと思うよ」
「そうだ、カシオスの墓にも花を」
「それはアイオリアにも付き合わせよう。それより、それだけ?」
「こんなものだと思うが…」
「それでおしまいなんだ?」

 問われたサガは首を傾げた。
 トーンの落ちた声にアイオロスの顔を見つめ直し、ようやく目の前の相手が少し怒っている様子なのに気づく。
 理由は判らぬながらも、原因は自分の発言しかないだろうとサガは慌てた。
「ま、まだ足りないだろうか?も、もっと範囲を広げねば駄目だろうか」
「いや、広げる必要はないと思うけど…」
「すまん、詫びの気持ちをこのような軽々しいイベントを利用して済ませようなど、確かに私が浅はかだった」
「浅はかだとは思わないよ」
 では何が怒らせたのだろうと、サガが真剣に考えていると、アイオロスが主張した。

「オレには何もないのか?」
「………え?」
「オレだってサガから何か貰っても良い立場だと思うんだが」

 真面目に考えていたサガは、どっと脱力した。
 対してアイオロスは完全にむくれている。
 少年ぽさの現れた友の顔を見て、思わずサガは笑い出した。

「英雄と呼ばれるお前にも、そのようなところがあるのだな」
 ツボに入ったのか、そのまま涙を浮かべるほど笑い続ける双児宮の主を、アイオロスはむうと睨む。
「オレは真剣なんだぞ」
「はいはい」
「だからオレにも何か買ってくること」

 サガは微笑みながら、アイオロスの前に立った。柔らかい目元で射手座の瞳を覗き込む。

「お前には品物ではなく、双児宮での今晩の食事に招待しようと思っていたのだが…私の作る料理ゆえ大したものは出せないし、買ったものの方が良いかもしれないな」

 アイオロスは大慌てで謝ると、サガの招待を丁重に受け入れたのだった。

2008/2/18


◆お揃い…(サガ&星矢)

 ロドリオ村は小さな田舎町だ。
 村人は質素な生活を営んでおり、こじんまりとした店の幾つか集まる中央の広場が村一番の繁華地となっている。
 サガはその店の一つに足を踏み入れた。
 ショーケースの中には、甘そうな焼き菓子や、色とりどりの飴が並んでいる。
 自給自足の聖域で暮らすサガからみると、嗜好品というだけで充分贅沢に思えるが、贈り物として渡すものはもう少し体裁の整ったお菓子が良いだろうと、店の奥の方へと足を運ぶ。
 奥の棚には、多少高級そうな贈答用の菓子箱が並んでいた。
 今日がバレンタインという稼ぎ時なイベントであることもあって、一角には綺麗にラッピングされた、手頃な価格の物も並んでいる。見るからに女性達が喜びそうな、可愛くて華やかな品々だ。
 しかしサガにはどれも同じに見えてしまう。
 生活能力がわりと低めなサガにとって、こういった店に一人で買物に来るという時点で、スキルの殆どを使い果たしていた。
 それでは普段の生活品や食料の購入はどうしているのかというと、村人が差し入れてくれたり、行きつけの店の馴染みの店員が、サガの希望を聞いた上でいろいろ見繕ってくれる。サガはそれに対してお金を渡すだけなのだ。

 ある意味、とてもボラれやすそうな箱入り聖闘士なのだが、品物の良し悪しを見分ける眼力だけはあるものだから、今のところ被害に遭ったことはない。
 ただ、その判定能力もここでは役立たなかった。
 どれもそれなりに良さそうだ…となると、あとは買い手のセンスの問題だからだ。

 誰にどの程度の何を買えば良いのか、サガが悩みながら立ちすくんでいる合間にも、何人もの客がプレゼントを選んでは購入していく。
 悩んでいるわりに回答が見つからず、時間だけが過ぎている。
(こうなったら次に来た客の真似をして、同じものを買おう)
 サガは気遣い屋であるが、一線を越えるとアバウトだった。

 そんなわけで、扉の方をちらちら見ながら次の客を待っていると、そこへ飛び込んできたのはサガの見知った顔だった。
「星矢!?」
 思わず驚いて声をかけると、元気に店主へ挨拶していた星矢がサガの方を振り向く。
「あれ?サガじゃないか。サガもプレゼントを買いにきたのか」
 子供らしい笑顔を浮かべて、星矢はサガのところへと駆け寄ってきた。
「星矢が何故ここに?」
 目を丸くして尋ねるサガへ、星矢は当たり前のように返す。
「サガと同じでバレンタインの用意だよ。ロドリオ村の姉さんと魔鈴さんと…あと沙織さんとシャイナさんにも買った方がいいかな」
 言いながら、早くも買物かごの中へお菓子を放り込んでいる。
 考えてみれば、数少ない聖域近辺の菓子店で、このような行事日に鉢合わせる確率は高いに決まっていた。
(見事に渡す相手が女性ばかりだな…)
 それが世間的には普通なのだが、聖域育ちのサガはそこもズレていた。
 とりあえず、サガは星矢をこの場での救世主とみなした。

「星矢、すまぬが頼みがある」
「何?」
「その、菓子を選ぶのを、手伝って欲しい」
 星矢は目をぱちくりとさせた。
「サガが好きなのを適当に選べばいいんじゃないか?予算は?」
「その適当というのが判らないのだ。普通は幾らぐらいの菓子を贈るものなのだろうか」
 当のサガは真剣に困っていて、縋るような目つきになっている。
 星矢は笑いながらも並んでいる菓子の説明をしてやり、サガの予算と購入個数を聞いて簡単なアドバイスをした。バレンタイン用に包装されたものは割高なので、美味しくてお勧めな菓子を買い、自分でラッピングするという方法も教えておく。
 悩みの晴れた顔で礼を言うサガだったが、まだ何か口ごもっていた。
「サガ、ここまで来たら全部聞いてやるから言ってみなよ」
 促すと、年上の黄金聖闘士は、普段の取り澄ました完璧さからは程遠い表情で、ぼそりと呟いた。
「お前に…お前にも買いたいのだが、お前はどれが好きだろうか」

 星矢は思わず笑い出した。
 このサガが、贈り物の品を直接本人に尋ねる程、本当に悩んでいたのだ。
 その場で値段が判ってしまうだろうとか、予算を先に聞いているのに高いものは頼みにくいぞとか、そんな相手への配慮まですっ飛ぶほどいっぱいいっぱいでいる。
(この人、本当に生活面では不器用なんだな…)
 しかし星矢は、それをサガに気づかせないためにも、遠慮しない事にした。

「こっちのドライフルーツ入りケーキがいいな。日持ちするし姉さんが世話になってる家の人と一緒に食えそうだから。あと、アドバイス代としてこっちの生チョコも一箱欲しい」
「生チョコ?」
「生クリームたっぷりの柔らかいチョコ。美味しいからサガも食べてみなよ」
 首をかしげているサガへ、店主が試食用の生チョコを1つ持ってきてくれた。
 星矢と店主が顔見知りであるという理由だけでなく、二人が大量に購入するとみてのサービスだろう。
 賽の目状の生チョコを摘んで口に入れたサガの顔が、ぱああっと綻んだ。
「…美味い」
「だろ?」
「お前が勧めるだけある味だ」
 甘いもの好きなサガは相当気に入ったようで、自分用にも生チョコの箱をかごへ追加している。

「サガとお揃いのチョコか…悪くないかも」
 星矢がこそりと呟いたのにも気づかず、サガは大量の菓子類をその店で購入すると、嬉々としながら双児宮へ戻って行ったのだった。

2008/2/19


自分へのご褒美…(白黒)

 サガが紙袋からいくつも取り出してテーブルへ並べているのは、ふもとの村で購入したチョコレートだった。
横には綺麗な模様の付いた布が何枚か並べられている。
 むき出しのままの菓子の箱を、サガは丁寧に(多少不器用に)布で包んではリボンでまとめていく。
『一体何をしているのだ』
 尋ねたのは、サガの内部で目を覚ました黒サガだ。
 表に出ている白いサガとは同一人物であるので、その疑問も脳内の記憶を探ればすぐに解けるのだが、二人は会話によって意思の疎通を図ることを好んだ。
 隠し事などできぬ互いの、形式上のプライバシーの尊重ということもある。
 白サガは手を休めぬまま半身へ答えた。
「ああ、星矢がな…日本ではバレンタインの日に親しいものへチョコを渡す風習があると言っていたのだ」
『ここはギリシアだが』
「星矢や女神は日本育ちだからな。このような風習であれば、たまには良かろう。日本のイベントはどうやら宗教行事とは離れているようだし、聖域に持ち込んでも問題あるまい」
 そう言いながらサガはチョコの箱のひとつを手に取り、パカリとフタを開けた。
 中には生チョコらしき四角形が並んでいる。
「お前にも買ってきてやったぞ」
『…!』
 一瞬驚いて声の途切れた黒サガの前で、白サガはその生チョコを指に摘んでぱくりと口に放り込んだ。
「今日初めて生チョコというものを知ったのだが、とても美味いな」
 指先についたカカオの粉も、舌で舐めて綺麗にしている。
『…お前…それは自分で食いたかっただけだろう』
「私はお前なのだろう?ならば同じ事だ」
 呆れたような怒ったような声で返す黒サガへ、白サガはしれっと返してまたチョコを摘む。
『……』
 ぱくぱく食べている白サガの手元に、それでも箱半分チョコが残されているのを見て、黒サガは複雑そうな小宇宙を残すと静かにサガの内面に沈んでいった。

2008/2/14


◆スノードロップ…(シュラ黒)

 サガが麿羯宮へ菓子を置いていったのは1時間ほど前のことだった。
 アテナの膝元で、黄金聖闘士ともあろう者が異教のイベントに参加しているのもどうかと思われるが、どうもアテナ自ら一緒にこの日を楽しんでいるらしい。
 シュラは手元に置かれた菓子を見た。綺麗な布でラッピングされたそれは、市販の包装には見えず、恐らくサガが自分で飾りつけたのだろう。
 そのサガは、アフロディーテやシオンにも菓子を届けるのだと言って、十二宮を上っていった。
 菓子を詰めた籠を片手に下げ、法衣姿で石段をのぼっていく姿を見て、シュラは何故か童話の赤ずきんを連想していたが、流石にそれは黙っていた。

 リボンで巻かれた包装を解くと、中からはチョコの箱が現れた。
 甘いものがそれほど得意ではないシュラにも食べやすそうな、カカオ成分の高い種類のものだ。
 箱をあけると、1つずつ銀紙に包まれた塊が綺麗に並んでいる。
 食べるのが勿体無い気がして、そのままじっと見ていると、ふいに声がかけられた。

「何だ、まだ食っておらぬのか」

 気を緩めていたとはいえ、声の届く至近距離までの侵入に気づかなかった事に慌てて振り向くと、そこに居たのは黒髪も艶やかな紅い瞳のサガの方。
「サガ!通る時は事前に声くらい掛けて下さいと、いつも言っているでしょう」
「守護宮への侵入に気づかぬお前が悪い」
 黒サガは悪びれる事もなく返す。
 確かに一理あることなので、シュラはそれ以上は追求するのを止めて、話題を変える。
「もう上の宮への用は済んだのですか」
「ああ。配るよりも途中で受け取った数の方が多かったようだがな…アレもマメなことだ」
「貰ったものはどうしたのです」
「異次元経由で先に双児宮へ送った」
「!!。サガ、十二宮では異次元経由の空間転移も禁止されています!」
「アレ並に細かい事を言う男だ…」

 明らかに聞き流している風の黒サガを見ても、手にしているのはシンプルな花束だけだ。
 いや、花束というよりはただ白い花を数本まとめて手にしているだけというような代物がそこにあった。
 サガが受け取るにしては地味な贈り物だなと思いつつ、誰から貰ったのかが気になる。
 気になりつつも聞けないでいると、シュラの視線に気づいた黒サガが、その花束をシュラに向かって放り投げてきたのだった。慌てて落とさぬようにその花を受け取る。

「気に入ったのなら、お前にやろう」
「い、いやしかし、貴方が貰ったものをオレが貰うわけにはいきません」
 黒サガの気持ちは嬉しいが、ささやかではあっても、贈り主の気持ちを無碍にするのは良くない。
 しかも、サガに贈られたものを自分が受け取るのは気分が良くない…気がする。
 だが、黒サガの口から洩れたのは意外な言葉だった。
「貰い物ではない」
 え?という顔でシュラが黒サガの顔を見つめ返した時には、もう黒サガは出口へ向かって歩き出した後だった。
「この時期に、あまり花は咲いていないものなのだな」
 はっと気づいてシュラは黒サガの足元をみる。
 行きには綺麗だった法衣の裾周りが、少し汚れていた。
 そして、上宮への道行きには持っていなかった花。

 この花は、彼が道すがら摘んできたものなのだ…そう気づいた時に、シュラは花束をとっさに卓上へ置き、黒サガを追いかけると背中から抱きしめていた。
「何だ、暑苦しい」
 呆れたように言う黒サガの髪へ、シュラは顔を埋めた。
「すみません、気づかなくて」
「フン、バレンタインなどどうでも良いが、アレだけがお前に何かを贈るというのも業腹というだけだ」
 そう言いながらも黒サガは片腕をまわして、シュラの頭をそっと撫でた。

2008/2/19


サガとそれぞれのバレンタイン!
でもスノードロップの花言葉は「あなたの死を望みます」という巡り合わせの悪さ