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◆双子神誕&カニ誕2008JUNK

1.ときには人のように…(双子神誕)
2.ヒーロー参上…(サガの蟹へのプレゼントパターン1)
3.ピー…(サガの蟹へのプレゼントパターン2)
4.ピー2…(サガの蟹へのプレゼントパターン2.5)


ときには人のように…(双子神誕)

「ヒュプノス」
「なんだ、タナトス」
「誕生日おめでとう」
「…………………」
 出会い頭に突然祝われて、ヒュプノスは驚く以前にタナトスの精神状態を案じた。
「…タナトスよ、何か拾い食いでもしたのか」
「そのような下賎な真似を神であるオレがするわけなかろう!それに、この場面で言うべきは『お前もおめでとう』ではないのか!」
「お前もおめでとう」
「きちんと心を込めろ!全く、お前が喜ぶはずとサガの奴が勧めるゆえ言ってみたが、何も楽しいことなどないではないか」
 その言葉で腑に落ちる。
 タナトスが 生誕の祝いを口にしたことなどはかつてない。死の神である彼が生を祝う謂れがないこともあるが、どちらかといえば性格上の理由からだ。
「成る程、あの男が言い出したのか」
「ああ、永劫を生きる神にとって、年に1度程度で生誕日を祝うのは、人間が毎時間ごとに生まれた秒や分を祝うようなものだと説いたのだが。今まできちんとお前を祝った事が無いと話したら、1度は口にしろと煩いのだ」
「珍しいな、お前に対してはあまり差し出がましい口を利かぬあの男が」
「自分も双子だからだろう」
「……成る程」
 二回目の相槌を打つ。そう言われてみるとサガらしい。
「人間に言われてというのは気にいらんが、お前に祝われるのは悪くないぞ」
「ならば最初から素直にそう言え」
 タナトスはそう言うとヒュプノスの顔を覗き込んだ。
「今日は二人でどこかへ出かけてみないか」
「冥界の復興作業はどうする」
「それこそ1日くらい構わんだろう。オレ達には永劫の時があるのだからな」
 楽しそうに手を引くタナトスは、随分と人間に影響されているように見えた。
(これもサガによってもたらされた変化か)
 湧き上がるこの感情は不安なのか感謝なのか、神にも判別できぬものだとヒュプノスは心の中でだけ一人ごちた。

2008/6/13


ヒーロー参上…(サガの蟹へのプレゼントパターン1)

「有り金全部出しな」
 スラムと呼ばれる路地奥で、サガは若い男に短銃を突きつけられた。
 チンピラの発する下卑た殺気など、路地に足を踏み入れた時から気づいていたが、黄金聖闘士にとっては何の脅威でもないのでほうっておいたのだ。
 しかし、その放置が男に犯罪を実行させてしまったのだなとサガは反省した。
「困窮しているのか。しかし暴力は良くない。お金は上げるから強盗などやめて、まっとうに働く道を見つけなさい」
 とりあえず相手を諭してみる。彼は性善説を信じているのだ。
「うるせえ!御託を並べてんじゃねえよ!」
「職がないのであれば、聖域での肉体労働を紹介しよう。収入は低いかもしれないが、食うには困らないぞ」
 場違いな説法にイラついたチンピラがサガの頭を殴ろうとするも、さらりとサガは躱す。
 ゆったりとしか動いていない筈の相手が、何度殴ろうとしても上手く逃げてしまう事にキレたチンピラは、武器に頼ろうとした。だが、いつの間にか手にしていたはずの短銃すら消えている。
「こんなものに頼らなくとも、生きていくのには困らないだろう?」
 後ろから声がして慌てて振り返ると、そこにはいつの間にか奪った銃の銃身部分を片手に持ち、困ったように微笑むサガの姿があった。その時男は初めて、相手が見たこともないような美しい青年である事に気づいたのだった。
(この男を上手く騙くらかして捕まえれば、金になりそうだ)
 実力差もわきまえず、男がそんな事を考えた途端、
「やめとけ」
 そんな声が降って来るのと同時に、男は昏倒した。
「デスマスク、何もいきなり気絶させなくても良かったのではないか」
 サガが横から声をかける。チンピラは、現われたデスマスクの一撃によって石畳に沈んだのだ。
「いきなり銃を持ち出すようなアホにはこれで良いんだよ。しかしアンタも悪い。何だってこんなスラムの奥地をフラフラ歩いてるんだ。待ち合わせの場所は街中だろう」
 詰め寄るデスマスクにサガは気まずそうな視線を彷徨わせた。
「その…道がわかりにくくてな…そのうち大通りに出るかと思って…」
「迷子になったんだな」
「探索をしていたのだ」
「迷子になったんだな?」
「……………すまん」
「誕生日だから奢ると呼びつけておいて、迷子になるのはアンタくらいだよ。で、何を奢ってくれるんだ」
「イタリア料理の店を予約してある。アフロディーテやシュラも来るはずだ…その、誕生日おめでとう」
 きまり悪げに祝いの言葉を述べるサガへ、デスマスクはニヤリと笑った。
「ヒロインを助け出すヒーロー気分を味あわせてくれたのも、誕生日プレゼントの一環か?」
「…?」
 何を言っているのか判らずに首をかしげたサガは、直ぐにデスマスクの言葉が今の現状を揶揄したものと気づく。
「なっ…誰がヒロインで誰がヒーローだ!」
「迷子になったアンタがヒーローでないのは確かだな」
 危険なスラムに似合わぬじゃれあいを見せながら、二人は予約した店へと歩き出したのだった。

2008/6/25


ピー…(サガの蟹へのプレゼントパターン2)

「デスマスクが好きなもの…ですか?」
 ふいに問われたシュラは首を傾げた。
「彼と仲の良いお前達ならば、知っているのではないかと思ってな」
 尋ねたサガの顔は真剣だ。アフロディーテが隣で渋い顔をする。
「サガ、あの男との関係を『仲良し』と称されると、いささか抵抗があります」
「しかし実際、仲が良いではないか」
 抗議をさらりと流し、サガは魚座の主にも同じ事を尋ねた。
「アフロディーテは何か知っていないだろうか。彼の今までの労をねぎらって、何か贈りたいのだ」
 真面目に聞かれているのだと判り、シュラとアフロディーテは記憶を辿ってみる。
 シュラがこめかみに指を当てながら、おぼろげな記憶を引き当てた。
「たしか…ピーがつく何とかが凄く好きだとか……」
「放送禁止用語の入った大人向けビデオか?」
 サガが呟くと直ぐに二人からツッコミが入った。
「違うぞサガ!」「どこでそんな情報を得たんですか!生活音痴のくせに!」
 カノンが昔、よくそういったアダルトビデオを家に隠していたとは言いにくくて黙ったサガだった。
 アフロディーテがシュラの言葉から同じく記憶の断片を引っ張り出している。
「確か四文字くらいでした。日本のもので、何とかピーという…」
「ああ、確かそうだった。よく判らない話であったので聞き流していたが」
「老師もお好きだという話だったな?」
 二人の話をまとめると『日本のもの』『ピーが語尾につく』『四文字』『老師も好き』という事らしい。

 日本のものであるのならば、日本人に聞いてみようと、サガは星矢のもとを訪れた。
「ええ?ピーが最後につく日本のもの?」
 聞かれた星矢は首を捻る。
「カキピーくらいしか思い浮かばないけど」
 13歳の少年に聞いたところで、出てくるのは菓子名位に決まっているのだが(そして人選にも問題があったが)、サガがそこまで気づくわけもない。
「カキピーというのは何だ?」
「柿の種の形をしたお菓子+ピーナッツ、略して柿ピー。その辺で売ってるよ」
「そうか、デスマスクは舌が肥えているからな。東洋の菓子にも造詣が深いのだろう」

 そんなわけで、業務用ダンボールで届けられた大量の柿ピーに、デスマスクは首を捻る事になるのだった。サガは気を利かせて童虎にも大量の柿ピーを送りつけたので、中国では童虎も首を捻っていたのは言うまでもない。


蟹が好きなのは『のりピー』ですよ 2008/6/25

ピー2…(サガの蟹へのプレゼントパターン2.5)

 サガの誤解により、誕生日に大量の柿ピーを贈られたデスマスクは、1ヶ月かけてその米菓を何とか食べ終えた。
(何故俺に日本菓子なのだ)
 そう思っていたデスマスクの疑問は、アフロディーテやシュラとの会話で氷解することとなる。
「お前らがいい加減な情報をサガに与えやがったのか!」
 と二人に怒るも、
「お前の好みの一端を覚えていただけでも有り難く思え」
 の一言で切り捨てるアフロディーテは論外として
「俺も日本のアイドル名までは…すまん」
 とシュラのように謝られると、好意から出た行動だけに文句も続けにくい。
「のりピーはアイドルじゃねえぞ、女優なんだからな」
 とりあえず譲れない部分を訂正し、サガの誤解も解くよう念を押したのだった。

 シュラを通じて『デスマスクが好きなのは、かきピーではなくのりピーだ』との情報を得たサガは、また日本人である星矢の元へ向かった。
 星矢はサガの話しを聞くと「あ〜、そっちか」と声を上げ、それからすまなそうにサガに手を合わせた。
「ごめんサガ!まさかデスマスクがそんな日本に詳しいと思わなくて…ピーがつくものと来たらてっきり柿ピーのほうだとばかり!」
「いや、きちんと確かめなかった私が悪いのだ」
「それにしてもイタリア人なのに、良くのりピーの事知っているよなあ」
「彼はことに東洋についての造詣が深い…私も見習わねば」
 二人は暫しデスマスクの話で盛り上がったあと、今度はちゃんと喜ぶものを贈ろうという結論で会話を締めたのだった。


 一週間後、巨蟹宮のデスマスクの元には大量の海苔ピーが業務用ダンボールで送りつけられた。


海苔ピーというお菓子もあるのです 2008/10/4