1.カノンとサガ(素直でない思春期カノンとベタ甘サガ)
2.ロスVS黒サガ(お笑い&漁夫の利カノン)
◆フリーダム…(カノンとサガ)
オレの兄さんはフリーダムな奴なので、相手の見た目や属性は気にしない。老若男女かまわず、美醜とわず、年齢拘らず…よく言えば博愛者だ。
兄さんがいろんな人に慈愛を振りまくもんだから、いろんな人がサガの信奉者になる。そんな兄さんが自慢ではあるが、ちょっとは八方美人抑えろと言いたくもなる。別にサガは相手に気に入られたくて愛想を見せてるわけじゃないがな。判ってるんだが、どうしてもムカつく。
大体サガにだってオレと同じ悪の心があるはずなんだ。上手く隠したって双子のオレには判る。隠す必要ないだろ。それを知って離れていく奴なんてほっとけばいい。欲しいものは力で奪え。オレ達にはそれだけの実力はあるんだから、好き勝手やる権利あるだろ。世の中、弱肉強食だ。
「ただいま、カノン」
気に食わないから、帰って来たサガの挨拶もわざと無視する。寝転がったソファーから起き上がりもせず、雑誌に目を通すフリをする。知らんふりしていたら、サガが近寄ってきた。
「カノン、雑誌が逆だ」
そんなところだけ目ざとく気づくんじゃねえ。
上下逆になっていた雑誌を持ち替えて、それでもオレは返事をしない。サガは困ったような顔をして、サイドテーブルへお菓子を置いた。また村人あたりからの貰いものか。それはお前が貰ったものでオレにじゃないだろう。サガは何かを貰っても決して一人では食べようとせずに持って帰ってくる。それがまたムカつく。そんなことをして貰わなくたって、オレは勝手にそのへんで盗んでくるってのに。
しかしサガはオレが盗みをすると怒る。どうせバレないんだから怒る事ないと思うのに怒る。品行方正をオレに求められても迷惑だ。
まだサガが隣にいる。何か話しかけたそうな顔をしている。何だってんだ。
「今日はハロウィンなのだ」
はいはい、だから何だよ。ギリシアでは関係ねえだろ。
「お菓子、渡したからな。他所で悪戯してくるのは許さんぞ」
「…はあ?」
オレらしからぬ間抜けな声を出してしまった。何の関係があるのだ…と言いかけて思い出す。ああ、菓子を渡されると悪戯が出来なくなるんだっけ?イベントにかこつけてまで、オレの悪行を止めたいってわけか。
呆れて返事もせずに、フイと視線を外して雑誌に目をやったら、その雑誌を取り上げられた。
「何しやが…!」
起き上がって怒りかけたオレの鼻先を、サガがかぷりと噛んだ。
呆気にとられて、動きが止まる。
「私はお前から菓子を貰っていない。だから悪戯しても良いだろう?」
にこりと笑ってサガが言う。オイオイどんな理屈だそれは。
サガはフリーダムな奴なので、相手が弟でも気にしない。そうして万人を蕩かす笑顔を向ける。
そんな兄が好きな自分に気づいて、オレはまた舌打ちをする。
◆漁夫の利…(ロスVS黒サガ+カノン)
「サガ!とりっくおあとりー…」
双児宮に駆け込んできたアイオロスは、冷たい視線でこちらを睨んでいる黒髪のサガに気が付いた。
「あれ、今日は君の方なんだ?」
ここへ来るまでの間に迷宮が発生しなかったので、てっきり今いるのは白サガの方だと思っていた。しかし、黒くたってサガはサガだ。ニコニコと手を振って挨拶しようとしたら。
光速で飴のつぶてが幾つも飛んできた。慌ててこちらも光速で回避する。背後で飴の粉砕する気配がした。形なんて微塵も残ってはいまい。飴の強度でよく飛来中に四散しなかったものだ。サガが小宇宙で補強してたのかな。
「サガ!さすがにその勢いで投げられると凶器だから!」
「フン、今日はハロウィンとやらなのだろう?お前の流儀に合わせてやっているのだ。文句を言われる筋合いはあるまい」
「え、俺の流儀と言うか、他所様の行事で」
「鬼は外!」
「いたたた、痛いよサガ、飴投げつけるな!それ違う行事!」
横では柱に寄りかかったカノンが呆れたような目をこちらに向けているが、サガを止める気は無いようだ。
めらりと俺の中で何か変なスイッチが入った。
「フ…サガ、俺を本気にさせたいようだね」
黒髪のサガはフンと鼻で笑う。
「貴様の本気などたかが知れている」
「ならば勝負だサガ、俺が勝ったら君に堂々と悪戯をさせてもらう!」
サガが怯んだように見えたのは気のせいだろうか。
だがそれも一瞬で、サガは手に持った籠の中から今度は杖を模した棒状キャンディを取り出した。ハロウィン用の菓子なのだろう。あれが光速で刺さったら死ぬな。
「ならば、私が勝ったらお前の弟に悪戯をさせてもらおうか」
紅い瞳でサガが笑う。え、俺じゃなくてアイオリアになのか?
「リアには手を出すな。それは君であろうと許さないよ」
「フン、私に勝つ自信がないということか」
「言ってくれるねえ。その鼻っ柱、叩き折らせてもらうぞ」
千日戦争に入った二人の隣で、カノンが迷惑そうな顔をしながら、砕け散った飴の欠片をホウキで掃きだしている。
「子供かお前らは…あまり菓子を粗末にするなよ」
それでもカノンは止めに入らなかった。
嘗ての仇敵同士がじゃれ合うのを横目で見ながら、平和なひと時を噛締めている。
そうして、アイオロスとの対戦で菓子が尽きた夜にでも、自分がサガへ「トリック オア トリート」と言ってやろうと目論んでいるのだった。